[演劇]アラン・リックマン・トーク@BAM

アラン・リックマンが演出するストリンドベリの戯曲「Creditors(債鬼)」がBAMで好評上演中である。ニューヨークタイムズでは「外科手術のように正確な演出と完璧な演技による、スリリングな新解釈」とべた褒め。公演の一環であるトークに4月27日夜行ってきた。芝居前のトークのため6時からと早目、席も先着順なので、仕事を早退して5時過ぎに会場に着くと、すでに長い列が。当初はBAMの映画館で行われる予定だったが、参加希望者が増えたために、「Creditors」を上演中のHarvey Theatre(キャパ約900席)に移動した。男の客はおそらく100人に1〜2人くらいの割合で、とにかく女、特に40代以上が多い。ジャニーズでも宝塚でもなく、平日の歌舞伎座を思わせる客層だ。スーパーサイズな女性の割合も通常より大目で、連れて行った夫は「象に踏みつぶされる!」とびびった。
生アランの初印象は、「体のでかいもっさりしたおっさん」である。一応ジャケットは着てこぎれいにしているが、垢抜けた印象ではない。クリントン元大統領ほどではないが、色の白い赤ら顔だ。白を基調にした居間のセットに司会と向かい合って座った。「Creditors」の内容や演出について語ったが、舞台を見ていない観客のためにほぼネタバレなしだったせいもあり、あまり突っ込んだ内容ではない。それでも、私は45分間うっとりし続けた。それは、リックマンのしゃべりが、「ハロー」と小さく言った瞬間から、彼の出演映画と全く同じ調子だったからである。スネイプ教授が「Turn to Page 394(394ページを見なさい)」と教室で言っただけで、不吉で思わせぶりで絶対的な権威と余韻が漂うあの調子。スクリーンでは、それにユーモアが加わるが、彼のしゃべりを聞いていて、ユーモアは緊張感ある演技と文脈のコントラストから来るもので、彼自身が狙っているものではないことが分かった。とはいえ、ジョークも幾つかしゃべったし、人柄は声とは裏腹に気楽で温かい感じを受けた。とにかく、大したことはしゃべってなかったが、答えた後の沈黙さえ黄金のような厚みがあり、厳選された言葉の舞台を実際に見たら卒倒するかもしれないと思った。「配水管の後ろからしゃべっているような声」と演劇学校の教師に評されたとリックマン自身も語ったように、発音は明確さには欠けるが、その分観客の注意をひきつける。
最後に質問コーナーがあったが、皆まじめで礼儀正しく、「ダンブルドアは本当にゲイ?」とか彼の芝居に関係ない質問をする人はおらず、演出の心得とか一般的な質問と答え。一人の若手演出家が、どうやって演出する作品を選ぶのかという質問をした。始めから演出しようと思った作品ではなく、成り行きまかせという答えだったが、先輩演出家であるピーター・ブルックのGo with your hunch(直感に引っかかるものを選べ)という言葉も紹介した (少なくとも3回は彼の言葉を引用していた)。演出の大家でなくても思いつきそうな言葉だし、そもそもリックマン自身の言葉ですらないのに、それなりに聞こえてしまうのは、彼が優れた演技者であるからだろう。質問者は、「リックマンがしゃべった言葉」として記憶に残すのだろうと思い、解釈者としての俳優の性質をおかしくも思い起こさせた。
ニューヨークタイムズの「Creditors」評:
http://theater.nytimes.com/2010/04/22/theater/reviews/22creditors.html?ref=theater