Cave of forgotten dreams/Tree of Life/Buck

Cave of forgotten dreams

ヴェルナー・ヘルツォークが、世界最古の洞窟壁画であるフランスのショーヴェ洞窟を3Dで撮ったドキュメンタリー映画。太古の馬やマンモス、ライオンの動きを鮮やかにとらえた壁画の映像は、洞窟の凹凸を活かした3Dで、思わず手を伸ばして触りたくなるほど真に迫っている。「アバター」なんて比べ物にならないほど効果的な3Dの使い方だ。1994年に発見され、フランス政府が許可された研究者のみしか入れない洞窟の壁画を見ることができるのはまさに眼福だ。映画全体としての出来はあまり良くないが、この映像を見逃すのは損。


壁画の素晴らしさに比べて、洞窟の調査に関わる人たちのインタビュー場面は格段につまらなく、1時間半が長く感じられた。2匹の白いワニが出てくる最後の場面も不要。近くを流れるローヌ川の水温が原発のために上がり、熱帯植物と白いワニのいる生物圏が生まれたとのこと。ショーヴェ洞窟を模したテーマパークを近くに造る計画もあるそうだ。ワニが白くなったのも放射能のせいだろうに、ヘルツォークは、二匹のワニは太古の壁画を見て何を思うのだろうなんて言っている。典型的なインテリ馬鹿だ。白いワニを出さなくても、壁画自体の映像からその素晴らしさや当時の生活について考えることができるのだから、言葉で表現しきれず、映像だけが伝えうる感動を台無しにしている。


福島原発事故の後で真っ先に来日したサルコジ大統領率いるフランスが原発推進国であることは明らかで、ヘルツォークはフランス政府の反原発と洞窟テーマパークの宣伝に利用されたのだろう。ジャングルに船を引き入れてしまうほど、自分の芸術に対する思い込みの強いヘルツォークは、政府をうまく説得したと思っているかもしれないが。福島原発事故以前でさえ、ヨーロッパでは反原発の気運が強く、日本のように原発は安全だなどと言い切るのは露骨すぎるだろうから、原発の問題をぼかして、白いワニだけが印象に残り、結局原発も悪くないのかもしれないという曖昧なメッセージが後に残る効果を出すにはヘルツォークはおあつらえだったかもしれない。それでもくどいようだが、壁画の映像は見る価値がある。



ツリー・オブ・ライフTree of Life

今年のカンヌ最高賞「パルムドール」受賞作。監督のテレンス・マリックは「天国の日々」で見られるように、絵画的な映像が素晴らしく美しく、何枚も絵を描きたくなるが、物語や登場人物に関しては全く記憶に残っておらず、映画作品としては難がある。この最新作も、そうした傾向に加え、「芸術映画」を称えるカンヌ受賞作なので、トンデモ作品だったら困るけど、美しい映像を大画面で見られるだけでいいと思って見に行ったら、予想通りだった。しかも、地球に生命が誕生するときの宇宙や海の映像は美しいが、「天国の日々」のように人間の息遣いが感じられる独創的な美しさではなく、一般的な科学番組の美しさだ。


中年になった息子(ショーン・ペン)が、1950年代テキサスでの少年時代を振り返る構成だが、父親役(ブラッド・ピット)は何だか良くわからないが子供たちに怒っている。家族の会話は聞き取りづらく、台詞や出来事の脈絡もはっきりせず、退屈でドラマとしても成り立っていない。マリックは美しい映像を撮る能力はあっても、物語を語る能力はゼロに等しい。2時間18分という長い時間を無駄にしてしまった。ブラッド・ピットはプロデュースもしているが、私にはいまだにこの人の人気の理由が良くわからない。ルックスはいいし、なんでもそれなりにこなす役者ではあるが。ショーン・ペンは唯一存在感があったが、物語のない作品の中で無駄遣いされていた。詩のような語り口で瞑想的に生命の意義を考えようとした作品のようだが、それにしたって、世界の中にいる個人がきちんと描かれなければ無理な試みだ。


バックBuck

馬と話ができる「ホース・ウィスパラー」のバック・ブラナマンを描くドキュメンタリー。バックは長年、全米の牧場をトレーラーで回り、馬の調教教室を開いている。彼にかかると、馬たちはロープなしで彼(と彼の乗った馬)に従い、優雅に足並みをそろえる。訓練されたことのない子馬も従順になる。このあまりにも魅力的なテーマは、残念ながら存分に描かれていない。「バック」という題なので、彼が訓練した馬よりも彼自身に焦点が当たるのは間違いではないが、それなら90分をうめるほど、美しい馬たちにもまして人間が面白くなきゃ。


兄とロープ曲芸を行いテレビ出演もしたが、父親には虐待されたという子供のころの思い出が語られるが、何度もそれが繰り返されるので、人間や人間が何かを行うきっかけはそんなに単純じゃないぞと思えてくる。バックが作品中で言うように、「馬の問題を抱える人間を助けるというよりは、人間の問題を抱えた馬を助けることが多い」なら、監督の人間の見方が一面的であるという証拠なのかもしれない。教室に参加する人間の問題もはっきりしないので中途半端だ。それよりは、バックと馬との交流が具体的に分かるようにもっと見たかった。馬と話をすると言うのは、それぞれの馬と群れの本能を理解し、それに沿った自然な調教を行うことだそうだが、具体的なテクニックは数点しか出てこなかった。そのため、動物好きな人々が自分の飼い犬や猫を理解するレベルからあまり出ていないのが惜しい。監督は、馬が主題なのに馬好きでないのだろうか?


ロバート・レッドフォード監督・主演の映画「The Horse Whisperer(邦題:モンタナの風に抱かれて)」のモデルにもなり、レッドフォードのスタントも務めたバックは俳優なみに魅力的で、しゃべりも面白く声も良いので、調馬教室の映像をうまく編集してもっと見せるだけでも良かった。「ホース・ウィスパラー」の限界を見せる場面の方がより具体的で時間的にも長いので、ポジティブな場面を具体的にもっと見たかった。