The Pirate Queen


金曜日に、3年3ヶ月勤めた某社での翻訳の仕事が終了。夜は、オープンしたばかりのブロードウェイ・ミュージカル「The Pirate Queen」を見た。NYタイムズの批評も悪く、全然期待していなかったが、やっぱりひどく、同行した友人の演劇プロデューサーとため息をつき、弾丸のように悪口を言いまくった。

16世紀のアイルランドに実在した女海賊グレイス・オマリーの物語で、作詞作曲は「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」の作曲チームによる。が、大部分の曲が同じに聞こえ、「レミズ」より曲の出来も悪い。演技や演出でなく「アメリカン・アイドル」式の絶唱でのみ盛り上げようとしている。オーケストラはアイルランドの楽器を使っているが、フルオーケストラではなくシンセサイザーで弦楽器を一部代用しており、制作費1000万ドル以上とは思えないほど安っぽい音。ブロードウェイのオーケストラは最低人数が決められているので、アイルランド楽器を入れた分、経費節約したようだ。歌のない部分は、ケルトの歴史や旅行物TV番組で流れる音楽のよう。

物語がつまらない。「リバーダンス」のプロデューサーによる制作で、さすがにそれ式のアイルランドのラインダンスは見ごたえがある。が、別に海賊の話である必要がない。曲数が非常に多く、殆ど台詞なしで、役者にとって大変な労力のいることだが、歌なしでダンスだけの場面の方が断然良い。物語の展開は遅くはないが省略が効いておらず、次に何が起こるか正確にタイミングまで予想できてしまう。

グレイスは、アイルランドの海賊船の船長で部族長でもある父の跡を継ぎ、エリザベス女王の治めるイギリス軍と戦う。他の部族長の息子と政略結婚をするが、結婚前からの恋人と愛し合う。この三角関係とフェミニズムアイルランドに対する愛国心に焦点が当てられ、冒険を愛する海賊のスリルやロマンは感じられない。イギリス軍とのチャンバラも下手くそで、子供でもがっかりするだろう。

普段舞台を見るときには、特に劇的な効果以外は照明に注意することはないが、ここでは、まずさが気になった。ヒロインの顔に美しくない険があったり、他の人物でも顔に影ができすぎか平坦すぎて、表情がはっきりしない。

一番驚いたのは、80年代ににエイズで死んだクラウス・ノミの生まれ変わりと再会したことだ。宇宙人のようなメイクで、当時の基準ですら特大のジャケットを着て、クラシック曲を裏声で歌ったキッチュニューウェイブな奇人だが、ここではエリザベス女王として登場した。仏像のようなどでかい光背を背負い、誰よりもふくらませたスカートで、シンセのハープシコードを伴奏に、ソプラノの声をころがす。紅白の小林幸子を思わせなくもない、無駄に豪華な衣装の数々を見るのが、ダンス以外では唯一の楽しみな舞台だった。

この舞台は「パイレーツ・オブ・カリビアン」のヒットに着想を得て、これも世界中でヒットした「リバーダンス」と組み合わせたら、という発想で作られたと思われる。が、私「売れれば何でもいいと思って、ヒロインが甲板に立って両手を広げる「タイタニック」な場面もあった」友人「でも「タイタニック」は沈んだよね」。