ビデオ日記など


4月中旬から失業中だが、毎日ビデオを見るのに忙しく、まったく退屈しない。朝きちんと起きて、鉢植えのパンジーやバジルの手入れをし、ヨガ、映画を日に2-3本見て、本も読み、家事をするだけで、一日が充実して過ぎていく。週末は音楽活動や友人と会ったり。数年前からガーデニングを始めたが、今まで間違った育て方ばかりしていたことに気がついた。たかが鉢植えとはいえ、奥が深い。新しい料理のレシピに挑戦するのも楽しい。映画も、一本見るとそこから世界がどんどん広がっていくので、きりがなく楽しい。

日本のBムービーおたく、クリス・Dが書いたOutlaw Masters of Japanese Filmという、映画監督や俳優の活動をまとめ、インタビューした本を読んでいたので、60-70年代の日本映画のビデオをたくさん見た。映画社会学の中の映画史というアプローチで書かれ、スコセッシのような語り口の深作欣二と、作品に対する突っ込んだ解釈が優れた黒沢清へのインタビューが面白い。石井輝男岡本喜八鈴木清順らへのインタビューは、作品に対する掘り下げ方が足りず不満が残るが、フィルモグラフィーは充実していて、ビデオガイドとしては最高。その中で面白かった作品。

「組織犯罪」:佐藤純彌監督の1967年の作品。実録やくざ物の先駆けだが、50年代後期の新東宝の風俗物っぽい雰囲気もある。
眠狂四郎」の「魔性の肌」「女地獄」「人肌蜘蛛」「悪女狩り」:シリーズ最初の頃の作品しか見たことがなかったが、エログロ路線が確立した以降の、雷蔵主演の最後の4本は断然面白い。「悪女狩り」は雷蔵の最後から2番目の映画で、狂四郎の死の予感が雷蔵自身と重なり、胸が痛む。
仁義の墓場(深作版)」:三池崇史のリメイクと違い、感情移入できる。
「怪談昇り竜」:石井輝男監督の任侠怪談物。梶芽衣子主演で、ホキ徳田がめくらの剣客を、土方巽見世物小屋のせむしを演じている。
赤毛」:岡本喜八作品のコメディとシリアスのさじ加減はツボにはまる。笑って泣いた。

他に面白かったビデオ。
「Harold & Kumar Go to White Castle」:「ラッシュアワー」ぐらいしか他に思いつかない、マイノリティ異人種コメディ。投資銀行に勤め、白人の同僚の尻拭いをさせられる韓国人と、頭は良いが人生なめてる医者の息子のインド人のコンビ。金曜の夜に突然、ホワイトキャッスルという三流ハンバーガーが食べたくなり、そこにたどり着くまでの波乱万丈な出来事を描く。NYでの生活実感として、チャイナタウン以外にいる中国人に比べ、白人社会に進出している割合が多いと感じるのが、この二人種かもしれない。ケビン・スミスの映画同様、ニュージャージーが舞台だが、スミス作品より知能指数が高い笑い。超ジャンクなバーガーへの、罪悪感を伴う誘惑と開放感も良く描けていて、制作中の二作目が楽しみ。

「Angel with the Iron Fist」:1967年制作の女スパイ物。ショウ・ブラザースの現代物を見たことがなかったので新鮮。普通の格闘でも、カンフー的なリズムがおかしい。チープかつ時代の雰囲気が感じられるキュートなセットや衣装が楽しい。
「Friends」これもショウ・ブラザースの現代物で、1974年作のブロークバック・カンフー・アクション。古いミュージカルで突然歌いだすように、カンフーを使った喧嘩が始まる。チープだがカラフルで効果的なセットは、'60年代後期の日活のセットデザインを思わせる。

「処女のはらわた(1986年)」:ポルノとスプラッター映画のパロディで、低予算ぶりがたまらなくおかしい。影絵殺人レイプの場面は、絵を描きたくなる。
「めまい」:見直したら、筋はどうでも良くて、ジミー・スチュワートのサイコぶりにぶっとんだ。いかにもやばそうな男優も良いけど、普通の善人に見える男のやばさも悪くない。映画を見まくっているだけあり、男の趣味が洗練されたのかも。
女が階段を上る時」:成瀬巳喜男監督。この作品の銀座のクラブのママも「カルメン故郷に帰る」のストリッパーも、高峰秀子の演じるプロは、現実感がありながら生活臭にまみれておらず、新鮮で共感できる。
「Black Belt Jones」:'70年代のブラック・エクスプロイテーション物で、「燃えよドラゴン」のジム・ケリーが、ギャングと戦うカンフーの達人を演じる。ルパンみたいなファンキーな音楽が気に入って、最近の家事のBGMはもっぱらこれ。
トリコロール」三部作:実は見たことがなかった名作。ノックアウトされた。
「恐怖女子高 暴行リンチ教室」:杉本美樹池玲子のスケバン物で鈴木則文監督。70年代のスケ番&ズベ公映画を集めた「Pinky Violence」というボックスセットが最近出て、この他には「前科おんな 殺し節」「女番長ゲリラ」「ズベ公番長 懺悔の値打ちもない(未見)」が入っているが、これが一番面白かった。鈴木監督特有の性についての笑いと、アナーキーさがうまくミックスされていて、70年代初期のズベ公パワーが伝わってくる秀作。

ブロードウェイで「Coram Boy」という、ロンドンでヒットした、ヘンデルの音楽が使われた音楽劇を見た。ディケンズジェーン・オースティン、ブロンテ姉妹の悪いところを合わせたような、夕刊紙的なゴス要素を取り入れた、階級社会メロドラマ。

最近、川端康成を再発見。「雪国」や「伊豆の踊り子」くらいしか読んだことがなかったが、「みずうみ」「眠れる美女」は谷崎より変態。今読んでいるのは、ゴーゴリの短編集の英訳。素朴な近代的なユーモアと洞察が興味深い。